私は私、蝉は蝉
この時期は蝉の遺体があちこちに散乱しております。
やつら路上にひっくり返って死んでると思わせておきながら
暑さに負けるな目を閉じたら終わりだぞとふと思うのか
いきなり羽をばたつかせて暑苦しい叫び声と共に暴れ出すことがあります。
頼むから心臓に悪いので大人しく眠りについておくれ。
蝉のダイナミクス、躍動感というか生命力というか、
あの漲るパワーが夏ばてまっさかりの僕には羨ましい・・・だがしかしキモイ。
とそれはいいとして、
本日、登戸の我が家に帰る途中、実に衝撃的なモノを見てしまいました。
夏もピークを過ぎ、蝉の鳴き声も勢い弱まった夕暮れのことであります。
私は仕事もしてないのに、というかしてないからこその
このだれた体を引きずるように歩いておりました。
すると向こうから一人の中年サラリーマンらしき姿が見えました。
こちらに向かって歩いてきます。
左手にカバン、右手でスーツの上着を肩にひっさげています。
ネクタイはしておりませんでした。今はやりのクールビズです。
ちなみに私はネクタイしております。いやそんなことはどうでも良いのです。
彼がこちらに近づくに従って、
私の胸に何か言いようのない違和感が膨らんできました。
黄昏時ですから彼の顔ははっきりと見えませんでしたが、
その歩き方からかなりの疲弊感が覗えるようでした。
そして私の目が、彼の下半身を捉えたとき・・・
その時、特派員は見た!
「な、なんだってーーー!!!」
目を疑いました。
私は幻覚を見ているのでしょうか。
何が私を知らず知らずのうちにそこまで追い詰めていたのでしょう。
私が見たのは、
彼(中年サラリーマン風)の股間に付着した・・・
蝉だったのです!
蝉は揺られながらもこの手離すまいとしっかりとつかまっていました。
それを見た瞬間、私の頭は真っ白になりました。
今までの自分の人生は一体なんだったのか、
私という人間そのものを全否定されたように、
全てがわからなくなりました。
今こうして正気を取り戻し、あの時の状況を鑑みてみますと
蝉君は何故あのような人間を侮辱しているかのようにも捉えられかねない大胆な行動に移ったのか、
中年サラリーマンは何故、あのような蝉の身勝手な領土侵犯を人間的包容力でもって許し得たのか、
そのようなはっきりとした疑問が沸き上がってきたのであります。
中年サラリーマンはまさか、まさか全力で自己主張していた蝉君をシカトしていたわけではあるまいと思うのです。
それは流石に日本人としての礼節に欠けた行為でしょう。
しかしいくら考えてみても、他人は他人、私は私。
人は人、蝉は蝉であり、その間には越えられない壁が立ちはだかっているのであります。
ですから、結局のところ意図など、動機などわからないのです。
我々観測者としては、事実をただ客観的に、ストレートに受け入れるしかないのです。
中年サラリーマンの股間に蝉がとまっていたと、
ただそれだけなのです。
それさえ受け入れてしまえば、世界はまた回り始めるのです。
